組合せnCrは実はnが負の数の時も考えることが出来ます。
rが負の数の時の組合せは無いのですが
nについては有り、その結果例えば
(a+b)-1=a-1-a-2b+a-3b2+...
の様に指数が負の数であっても
二項定理が使えます。
(正の数の時との違いは展開が無限に続いてしまう事です)
この記事では、
組合せを負の数に拡張する所から始めて
二項定理の適用範囲を広め、より便利にします。
一般二項係数
高校数学で習う組合せnCrは
nが自然数の時に限られますが
大学ではnが実数の時(負の数や小数でも良い)
も考えた”一般二項係数”という物を習います。
すなわち実数n、自然数rについて
一般二項係数を次で定義します。
$$ {}_n \mathrm{C}_r := \frac{ n(n-1)\cdots(n-r+1) }{r!} \hspace{20cm}$$
ここで右辺の分子は
$$ \underbrace{ n(n-1)\cdots(n-r+1) }_{r個} \hspace{20cm}$$
の様に、nから一つずつ下るr個の積なので
nが自然数の時は
通常の組合せと一致します。
r=0の場合はnに依らず値は1と定めます。
$$ {}_n \mathrm{C}_0 := 1 \hspace{20cm}$$
(例)n=-1
負の数の組合せに慣れるため
例としてn=-1、r=3の場合を求めてみます。
$$ {}_{-1} \mathrm{C}_3 = \frac{(-1)\cdot(-2)\cdot(-3)}{3!} = (-1)^3 =-1 \hspace{20cm}$$
より答えは-1です。
一般にn=-1なら
公式
$$ {}_{-1} \mathrm{C}_r = (-1)^r \hspace{20cm}$$
が成り立ちます。
nが負の実数
nはもっと自由に値をとる事ができます。
例えば、
$$ {}_{-2.6} \mathrm{C}_2 = \frac{(-2.6)\cdot(-3.6)}{2!} = (1.3) \cdot (3.6) =4.68 \hspace{20cm}$$
なども大丈夫です。
n=0
特にn=0の時は
$$ {}_0 \mathrm{C}_r = \frac{ 0 \cdot (-1)\cdots(-r+1) }{r!} = 0 \hspace{20cm}$$
分子に必ず0が現れるので答えも0です。
ただし一個だけ例外があって、rも0なら
$$ {}_{0} \mathrm{C}_0 = 1 \hspace{20cm}$$
定義より1になります。
\( {}_0 \mathrm{C}_r = 0 \quad (r \neq 0) \)
nが自然数
nが自然数の時は
$$ {}_5 \mathrm{C}_3 = \frac{ 5 \cdot 4 \cdot 3 }{3!} = 10 \hspace{20cm}$$
の様に、通常の意味での
組合せと同じ計算になります。
n<rの場合
一般二項係数においては、
n<rであっても許されます。
例えば3C5は
$$ {}_3 \mathrm{C}_5 = \frac{ 3 \cdot 2 \cdot 1 \cdot 0 \cdot (-1) }{5!} = 0 \hspace{20cm}$$
より0です。
この場合、分子に必ず0が
現れるので答えも常に0です。
ある物より多く選ぶ方法は無いことを意味します。
\( {}_n \mathrm{C}_r = 0 \quad (n \in \mathbb{N}, \; n<r) \)
二項定理の拡張
以上の準備により、
nが負の数の時にも二項定理が成立します。
一般二項定理
整数nについて(負の数でも良い)
$$ (a+b)^n= \sum_{r=0}^\infty {}_{n} \mathrm{C}_r a^{n-r} b^r \hspace{20cm}$$
である。
ただしaとbは
$$ \left| \frac{b}{a} \right| < 1 \quad (a \neq 0) \hspace{20cm}$$
を満たすとする。
高校数学の二項定理
この新しい二項定理はnが自然数の時
高校で習った二項定理と一致します。
実際、
$$(a+b)^n = \sum_{r=0}^\infty {}_{n} \mathrm{C}_r a^{n-r} b^r \hspace{20cm}$$
$$\quad \quad \quad \quad \!\!= \sum_{r=0}^n {}_{n} \mathrm{C}_r a^{n-r} b^r +\sum_{r=n+1}^\infty {}_{n} \mathrm{C}_r a^{n-r} b^r \hspace{20cm}$$
$$ \quad \quad \quad \quad \!\!= \sum_{r=0}^n {}_{n} \mathrm{C}_r a^{n-r} b^r +0 \hspace{20cm}$$
$$ \quad \quad \quad \quad \!\!=\sum_{r=0}^n {}_{n} \mathrm{C}_r a^{n-r} b^r \hspace{20cm}$$
です。
n=0
n=0の時も左辺は
$$ (a+b)^0 = 1 \hspace{20cm}$$
より1、右辺も
$$ \sum_{r=0}^\infty {}_{0} \mathrm{C}_r a^{0-r} b^r = {}_{0} \mathrm{C}_0 a^0 b^0 +\sum_{r=1}^\infty {}_{0} \mathrm{C}_r a^{-r} b^r \hspace{20cm} $$
$$\quad \quad \quad \quad \quad \quad = 1 +0 \hspace{20cm}$$
$$\quad \quad \quad \quad \quad \quad =1 \hspace{20cm}$$
なので成立しています。
負の数の二項定理
大事なのはnが負の数の時も
二項定理を使えることで、例えば
n=-1
$$ (a+b)^{-1} = {}_{-1} \mathrm{C}_0 a^{-1} +{}_{-1} \mathrm{C}_1 a^{-2}b +{}_{-1} \mathrm{C}_2 a^{-3}b^2 + \cdots \hspace{20cm}$$
$$\quad \quad \quad\quad \, = 1 \cdot a^{-1} +(-1) \cdot a^{-2}b +(-1)^2 \cdot a^{-3}b^2 + \cdots \hspace{20cm} $$
\(\quad \quad \quad\quad \, = a^{-1} -a^{-2}b +a^{-3}b^2 + \cdots \hspace{20cm}\)
n=-2
$$ (a+b)^{-2} = {}_{-2} \mathrm{C}_0 a^{-2} +{}_{-2} \mathrm{C}_1 a^{-3}b +{}_{-2} \mathrm{C}_2 a^{-4}b^2 + \cdots \hspace{20cm}$$
$$\quad \quad \quad\quad \, = a^{-2} -2 a^{-3}b +3 a^{-4}b^2 + \cdots \hspace{20cm} $$
の様に無限級数にはなりますが
全てのnについて二項展開できます。
教科書には
大学の教科書では、
一般二項定理はテイラー展開から導かれます。
すなわち実数αについて|x|<1の時
$$(1+x)^\alpha = \sum_{r=0}^\infty {}_{\alpha} \mathrm{C}_r x^r \hspace{20cm} $$
という公式を勉強します。
公式を認めれば
$$ (a+b)^n = \left\{ a\left( 1 +\frac{b}{a} \right) \right\}^n \hspace{20cm}$$
$$ \quad \quad \quad \quad \!\!= a^n \left(1 +\frac{b}{a} \right)^n \hspace{20cm}$$
$$ \quad \quad \quad \quad \!\!=a^n \sum_{r=0}^\infty {}_{n} \mathrm{C}_r \left( \frac{b}{a} \right)^r \hspace{20cm}$$
$$ \quad \quad \quad \quad \!\! = \sum_{r=0}^\infty a^n \cdot {}_{n} \mathrm{C}_r \left( \frac{b}{a} \right)^r \hspace{20cm}$$
$$ \quad \quad \quad \quad \!\! = \sum_{r=0}^\infty {}_{n} \mathrm{C}_r a^{n-r} b^r \hspace{20cm}$$
より定理が証明されます。