解析学

【arctanを展開できる】
項別微分・積分の定理とテイラー展開への応用

項別微分・積分→テイラー展開に応用、と書かれた黒板

テイラー展開(マクローリン展開)を求めるには

剰余項の収束を示す通常の方法に加えて、
項別微分・積分を利用する方法があります。

この記事では、

べき級数の項別微分・積分の定理を主に扱い
対数、逆三角関数をテイラー展開します。

また関数項級数が区間で一様収束している
条件のもと使える、定理の一般形も紹介します。

項別微分の定理

定理

収束半径r(|x|<rにおいて収束)のべき級数

$$ f(x) = \sum_{n=0}^\infty a_n x^n = a_0 +a_1 x +a_2 x^2 +\cdots \hspace{20cm} $$

は収束半径内で微分可能かつ

$$ f'(x) = \sum_{n=1}^\infty n a_n x^{n-1} = a_1 +2 a_2 x +3a_3 x^2 +\cdots \hspace{20cm} $$

が成り立つ。

定理の意味

項別微分の定理は有限和

$$ f(x) = \sum_{k=0}^n a_k x^k = a_0 +a_1 x +a_2 x^2 +\cdots +a_n x^n\hspace{20cm} $$

については自明に成り立ちます。

$$ f'(x) = \frac{d}{dx} \sum_{k=0}^n a_k x^k = \sum_{k=0}^n \frac{d}{dx} a_k x^k = \sum_{k=1}^n k a_k x^{k-1} \hspace{20cm} $$(微分をシグマの中に入れられます)

無限和の時にも実は成り立つ、という定理です。

項別積分の定理

定理

収束半径rのべき級数

$$ f(x) = \sum_{n=0}^\infty a_n x^n = a_0 +a_1 x +a_2 x^2 +\cdots \hspace{20cm} $$

は同じく収束半径rの原始関数F(x)を持ち、

$$\begin{eqnarray} F(x) &=& F(0) + \sum_{n=0}^\infty \frac{a_n}{n+1} x^{n+1} \\ &=& F(0) +a_0 x +\frac{a_1 }{2}x^2 +\frac{a_2 }{3}x^3 +\cdots \end{eqnarray} \hspace{20cm} $$

が成り立つ。

f(x)の原始関数とは
F'(x) = f(x)を満たす関数F(x)のことです。

証明

新潟工科大学の竹野先生の講義ノートに載っています。

$$ \lim_{n \to \infty} \left| \frac{a_{n+1}}{a_n} \right| = l \hspace{20cm} $$

の時に限った証明です。

テイラー展開への応用

項別積分の定理を使うと、
例えばarctan(x)のテイラー展開を求められます。

始めに公比tの無限等比級数から得られる
次のテイラー展開を用意します。

$$ \frac{1}{1-t} =\sum_{n=0}^\infty t^n = 1 +t +t^2 +t^3 +\cdots \quad (|t|<1) \hspace{20cm}$$

tに-x2を代入すれば

$$\frac{1}{1+x^2} = \sum_{n=0}^\infty (-1)^n x^{2n} = 1 -x^2 +x^4 -x^6 +\cdots \quad (|x|<1) \hspace{20cm}$$

|x|<1の時、|-x2|=|t|<1です。

左辺はarctan(x)を原始関数に持つので
項別積分して、

$$\begin{eqnarray} \arctan x &=& \arctan 0 +x -\frac{1}{3} x^3 +\frac{1}{5} x^5 -\frac{1}{7} x^7 +\cdots \\ &=& \sum_{n=0}^\infty \frac{(-1)^n}{2n+1}x^{2n+1} \quad (|x|<1) \end{eqnarray} \hspace{20cm}$$

と求まります。

この場合は$$ \lim_{n \to \infty} \left| \frac{a_{2n+2}}{a_{2n}} \right| = \lim_{n \to \infty} \left| \frac{(-1)^{n+1}}{(-1)^n} \right| = 1 \hspace{20cm} $$が定理を使うための条件です。

べき級数の一意性

以上の計算で求まったのは
正確には、べき級数展開であり、

べき級数展開はテイラー展開と一致するか

が問題として残っています。

それについては、

べき級数展開は一意であり、
しかもテイラー展開(マクローリン展開)と一致する。

という定理で解決します。

参考:べき級数の一意性

一般形

項別微分・積分の定理には
べき級数を含め使える一般形があります。

項別微分の定理

定理

\(\sum_{i=1}^\infty f_i (x) \)は[a, b]上各点収束し

\( \sum_{i=1}^\infty f'_i (x) \)は[a, b]上一様収束するならば

\(\sum_{i=1}^\infty f_i (x) \)も[a, b]上一様収束で微分可能、

$$ \frac{d}{dx} \left( \sum_{i=1}^\infty f_i (x) \right) = \sum_{i=1}^\infty f'_i (x) \quad x \in [a, b] \hspace{20cm} $$

が成り立つ。

項別積分の定理

定理

\( \{ f_n (x) \}_{n=1}^\infty \)を[a, b]上の連続関数の列とする。

\( \sum_{i=1}^\infty f_i (x) \)が[a, b]上一様収束するならば、

$$ \int_a^b \left( \sum_{i=1}^\infty f_i (x) \right) dx = \sum_{i=1}^\infty \int_a^b f_i (x) dx \hspace{20cm} $$

が成り立つ。

参考:理工系のための微分積分〈2〉

関数のテイラー展開

最後に定理を使い、
色々な関数のテイラー展開を求めたいと思います。

対数関数

\( \ln(1+x) \)

公比-xの無限等比級数を考えると

$$ \frac{1}{1+x} = 1 -x +x^2 -x^3 +\cdots \quad (|x|<1) \hspace{20cm}$$

$$ \lim_{n \to \infty} \left| \frac{a_{n+1}}{a_n} \right| = \lim_{n \to \infty} \left| \frac{(-1)^{n+1}}{(-1)^n} \right| = 1 \hspace{20cm} $$

項別積分により

$$\begin{eqnarray} \ln (1+x) &=& \ln 1 +x -\frac{1}{2} x^2 +\frac{1}{3} x^3 -\frac{1}{4} x^4 +\cdots \\ &=& \sum_{n=1}^\infty \frac{(-1)^{n+1}x^n}{n} \quad (|x|<1) \end{eqnarray} \hspace{20cm}$$

\( \ln (1-x) \)

上式のxを-xで置き換えれば

$$ \ln (1-x) =\sum_{n=1}^\infty \frac{(-1)^{2n+1}x^n}{n} =\sum_{n=1}^\infty \frac{-x^n}{n} \quad (|x|<1) \hspace{20cm}$$

|x|<1と|-x|<1は同値です。

\( \ln \left( \frac{1+x}{1-x} \right) \)

先に求めた二つの式を組み合わせて

$$ \begin{eqnarray} \ln \left( \frac{1+x}{1-x} \right) &=& \ln (1+x) -\ln (1-x) \\ &=& \sum_{n=1}^\infty \frac{(-1)^{n+1}x^n}{n} -\sum_{n=1}^\infty \frac{-x^n}{n} \\ &=& \lim_{n \to \infty} \sum_{k=1}^n \frac{(-1)^{k+1}x^k}{k} -\lim_{n \to \infty} \sum_{k=1}^n \frac{-x^k}{k} \\ &=& \lim_{n \to \infty} \sum_{k=1}^n \frac{(-1)^{k+1}x^k +x^k}{k} \\ &=& \lim_{n \to \infty} \left( 2x +\frac{2}{3}x^3 +\cdots +\frac{(-1)^{n+1}x^n +x^n}{n} \right) \\ &=& \sum_{n=0}^\infty \frac{2}{2n+1}x^{2n+1} \quad (|x|<1) \end{eqnarray} \hspace{20cm}$$

逆三角関数

\( \arcsin x \)

始めにテイラー展開

$$\begin{eqnarray} \frac{1}{\sqrt{1-x}} = 1 &+&\frac{1}{2} x +\frac{1 \cdot 3}{2^2 \cdot 2!} x^2 +\frac{1 \cdot 3 \cdot 5}{2^3 \cdot 3!} x^3 +\cdots \\ &+&\frac{1 \cdot 3 \cdots (2n-1) }{2^n \cdot n!} x^n +\cdots \quad (|x|<1) \end{eqnarray} \hspace{20cm} $$

は認める。

参考

上式のxをx2で置き換えると

$$\begin{eqnarray} \frac{1}{\sqrt{1-x^2}} = 1 &+&\frac{1}{2} x^2 +\frac{1 \cdot 3}{2^2 \cdot 2!} x^4 +\frac{1 \cdot 3 \cdot 5}{2^3 \cdot 3!} x^6 +\cdots \\ &+&\frac{1 \cdot 3 \cdots (2n-1) }{2^n \cdot n!} x^{2n} +\cdots \quad (|x|<1) \end{eqnarray} \hspace{20cm} $$

|x|<1の時、|x2|<1です。

$$ \lim_{n \to \infty} \left| \frac{a_{2n+2}}{a_{2n}} \right| = \lim_{n \to \infty} \left| \frac{2n+1}{2(n+1)} \right| = 1 \hspace{20cm} $$

項別積分して

$$\begin{eqnarray} \arcsin x = \arcsin &0& +x +\frac{1}{2 \cdot 3} x^3 +\frac{1 \cdot 3}{2^2 \cdot 2! \cdot 5} x^5 +\cdots \\ &+&\frac{1 \cdot 3 \cdots (2n-1) }{2^n \cdot n! \cdot (2n+1)} x^{2n+1} +\cdots \quad (|x|<1) \end{eqnarray} \hspace{20cm} $$

係数の分子は二重階乗

\( (2n-1)!! := (2n-1) (2n-3)(2n-5) \cdots 5 \cdot 3 \cdot 1 \)

なので

$$ \arcsin x = x +\sum_{n=1}^\infty \frac{(2n-1)!! }{2^n \cdot n! \cdot (2n+1) } x^{2n+1} \quad (|x|<1) \hspace{20cm}$$

となる。

階乗による表記

公式

$$\begin{eqnarray} (2n-1)!! &=& \frac{1 \cdot 2 \cdot 3 \cdots (2n-2)(2n-1)}{2 \cdot 4 \cdot 6 \cdots (2n-4)(2n-2)} \cdot \frac{2n}{2n} \\ &=& \frac{(2n)!}{2^n \cdot n!} \end{eqnarray} \hspace{20cm}$$

を用いれば

$$\begin{eqnarray} \arcsin x &=& x +\sum_{n=1}^\infty \frac{(2n)! }{2^n \cdot n! \cdot (2n+1) \cdot 2^n \cdot n!} x^{2n+1} \\ &=& x +\sum_{n=1}^\infty \frac{(2n)!}{4^n (n!)^2 (2n+1)} x^{2n+1} \\ &=& \sum_{n=0}^\infty \frac{(2n)!}{4^n (n!)^2 (2n+1)} x^{2n+1} \quad (|x|<1) \end{eqnarray} \hspace{20cm}$$

の様に、二重階乗を使わずに書ける。

-解析学