対数関数をそのままテイラー展開すると、
式の成立するxの範囲の都合で
ln2くらいしか求まりません。
この記事では
対数の値の解析に適した形での展開法を紹介して
任意の自然対数、常用対数を求める方法を説明します。
具体的な値は近似式としてアルゴリズムを組み、
数値計算して手に入れます。
定理
対数の値を求めるには
次のテイラー展開を利用します。
ここでlnxは自然対数(底がeの対数)です。
xの範囲
上の展開式は
\(|x| < 1\)
において成立します。
(右辺の無限級数は範囲内で明らかに収束)
\( \ln 7 \) の値
例えばln7を求めてみます。
$$ \frac{1+x}{1-x} = 7 \hspace{20cm} $$
を解くと、
x=3/4なので定理に代入して
$$\begin{eqnarray} \ln 7 &=& 2 \cdot \frac{3}{4} +\frac{2}{3} \cdot \left( \frac{3}{4} \right)^3 +\frac{2}{5} \cdot \left( \frac{3}{4} \right)^5 +\frac{2}{7} \cdot \left( \frac{3}{4} \right)^7 +\cdots \\ &\fallingdotseq& 2 \cdot 0.75 +\frac{2}{3} \cdot 0.42 +\frac{2}{5} \cdot 0.24 +\frac{2}{7} \cdot 0.13 \\ &\fallingdotseq& 1.91 \end{eqnarray}\hspace{20cm} $$
ln7の近似値は1.91です。
9次、11次の項と計算を続ければ
\( \ln 7 = 1.9459 \cdots \)
の様に、
どこまでも精度よく
ln7の値を求めることができます。
\( \ln a\) の値
任意の正の実数aについて
対数の値を求めるには、方程式
$$ \frac{1+x}{1-x} = a \hspace{20cm} $$
の解の存在が必要です。
これは関数
$$ y = \frac{1+x}{1-x} \hspace{20cm} $$
が定義域(-1<x<1)において
値域を(0<y<∞)に持つことで保証されます。
実際、
$$ \lim_{h \to +0} \frac{1+(-1+h)}{1-(-1+h)} = \lim_{h \to +0} \frac{h}{2+h} = 0 \hspace{20cm} $$
$$ \lim_{h \to -0} \frac{1+(1+h)}{1-(1+h)} \;\;\; = \lim_{h \to -0} \frac{2+h}{-h} = \infty \hspace{20cm} $$
であり、
またyは定義域で連続です。
常用対数の求め方
化学科の人は自然対数より
常用対数(底が10の対数)を良く使うと思います。
常用対数を求めたい時は、
底の変換公式を用い自然対数に帰着させます。
$$\log_{10} 2 = \frac{\ln 2}{\ln 10} = \frac{0.6931\cdots}{2.3025\cdots} = 0.3010\cdots \hspace{20cm} $$
証明
$$ f(x) := \ln \left( \frac{1+x}{1-x} \right) \hspace{20cm} $$
とする。
$$ \begin{eqnarray} f'(x) &=& \frac{1-x}{1+x} \cdot \left\{\frac{1}{1-x} +\frac{1+x}{(1-x)^2}\right\} \\ &=& \frac{1-x}{1+x} \cdot \left\{\frac{2}{(1-x)^2}\right\} \\ &=& 2 \cdot \frac{1}{1+x}\cdot \frac{1}{1-x} \end{eqnarray} \hspace{20cm}$$
なので
$$ g(x) := \frac{1}{1+x}\cdot \frac{1}{1-x} \hspace{20cm}$$
と置いて、
f(x)の代わりにg(x)をn階微分する。
ライプニッツの公式より
$$ g^{(n)}(x) = \sum_{k=0}^n {}_n \mathrm{C}_k \left( \frac{1}{1+x} \right)^{(k)} \cdot \left( \frac{1}{1-x} \right)^{(n-k)} \hspace{20cm}$$
ここで
$$\begin{eqnarray} \left( \frac{1}{1+x} \right)^{(k)} \quad &=& k!(-1)^k \frac{1}{(1+x)^{k+1}} \\ \left( \frac{1}{1-x} \right)^{(n-k)} &=& (n-k)! \frac{1}{(1-x)^{n-k+1}} \end{eqnarray} \hspace{20cm}$$
を用いて
$$\begin{eqnarray} g^{(n)}(x) &=& \sum_{k=0}^n {}_n \mathrm{C}_k k!(-1)^k \frac{1}{(1+x)^{k+1}} \cdot (n-k)! \frac{1}{(1-x)^{n-k+1}} \\ &=& \sum_{k=0}^n \frac{n!}{k!(n-k)!} k!(-1)^k \frac{1}{(1+x)^{k+1}} \cdot (n-k)! \frac{1}{(1-x)^{n-k+1}} \\ &=& \sum_{k=0}^n n! (-1)^k \frac{1}{(1+x)^{k+1}} \cdot \frac{1}{(1-x)^{n-k+1}} \end{eqnarray} \hspace{20cm} $$
ゆえに
$$ g^{(n)}(0)= \sum_{k=0}^n n! (-1)^k = \underbrace{n! -n! +n! -\cdots }_{n+1個} \hspace{20cm}$$
nが偶数、奇数の時に分けて
$$ g^{(n)}(0) = \left\{ \begin{eqnarray}n! \quad (n \in 2 \mathbb{N}) \\ 0 \quad (n \notin 2 \mathbb{N}) \end{eqnarray} \right. \hspace{20cm}$$
となっている。
$$ f^{(n)}(0) = 2 \cdot g^{(n-1)}(0) \hspace{20cm} $$
だったので
$$ f^{(n)}(0) = \left\{ \begin{eqnarray}&0& \quad \quad \, (n \in 2 \mathbb{N}) \\ 2(n&-&1)! \quad (n \notin 2 \mathbb{N}) \end{eqnarray} \right. \hspace{20cm}$$
最後に
$$\begin{eqnarray} \ln \left( \frac{1+x}{1-x} \right) &=& \sum_{n=0}^\infty \frac{f^{(n)}(0)}{n!} x^{n} \\ &=& \sum_{n=0}^\infty \frac{f^{(2n+1)}(0)}{(2n+1)!} x^{2n+1} \\ &=& \sum_{n=0}^\infty \frac{2 \cdot (2n)!}{(2n+1)!} x^{2n+1} \\ &=& \sum_{n=0}^\infty \frac{2}{2n+1} x^{2n+1} \quad \square \end{eqnarray} \hspace{20cm} $$