指数関数には条件a>0が付けられています。
\( y = (-1)^x \)
の様な底が負の指数関数をなぜ除くかと言うと
\( (-1)^{1/2} = i \)
つまり負の数の1/n乗は複素数になってしまい
実数だけでは関数を定義できないからです。
そこで複素関数論の教科書を開くと
複素数の指数関数
という物があり、こちらは底が負でも許されます。
しかし実数の時に成り立っていた
指数法則が半分失われてしまう事になります。
この記事では、
複素数の力を借りると底が負でも
累乗の定義を満たす指数関数が作れる事を示した後
指数法則がどこで破綻するかまで説明したいと思います。
複素関数論の基礎を修めた大学2~3年生を想定して書きます。
複素数の指数関数
複素数を仲間に入れると、
底が負の指数関数を考える事ができます。
0でない複素数aについて指数関数を次で定義します。
複素数の指数関数
$$ a^z := e^{z(\log |a| +i \mathrm{Arg} \, a)} \quad (z \in \mathbb{C}) \hspace{20cm}$$
ここでArg(z)はzの偏角を表す関数で値の範囲を
\( 0 \leq \mathrm{Arg} \, z < 2\pi \quad \left( z \in \mathbb{C} - \{ 0 \} \right) \)
と定めます。
a=-1とすれば、
$$ (-1)^z = e^{z\{\log |-1| +i \mathrm{Arg} \, (-1)\} } \hspace{20cm}$$
$$\quad \quad \quad \! = e^{ z(0 +i\pi ) } \hspace{20cm}$$
$$\quad \quad \quad \!=e^{i \pi z} \hspace{20cm}$$
なので
負の数の指数関数が求まりました。
こちらは
$$ (-1)^{1/2} = e^{i \pi/2} = i \hspace{20cm}$$
の様に1/n乗も正しく計算されます。
定義の照らし合わせ
複素数には整数乗までなら既に
実数と同様の累乗が定義されています。
始めに、この新しい指数関数が
それらの定義と一致する事を確認します。
自然数乗
$$ a^n = e^{n(\log |a| +i \mathrm{Arg} \, a)} \hspace{20cm}$$
ezは一番目の指数法則
を満たすので(証明はコーシー積より)
$$ = e^{(\log |a| +i \mathrm{Arg} \, a)} \times e^{(n-1)(\log |a| +i \mathrm{Arg} \, a)} \hspace{20cm}$$
繰り返し用いて、
$$ = \underbrace{ e^{(\log |a| +i \mathrm{Arg} \, a)} \times e^{(\log |a| +i \mathrm{Arg} \, a)} \times \cdots \times e^{(\log |a| +i \mathrm{Arg} \, a)} }_{n個} \hspace{20cm}$$
\(= \underbrace{a \times a \times \cdots \times a }_{n個} \)
0乗
$$ a^0 = e^{0 \times (\log |a| +i \mathrm{Arg} \, a)} = e^0 = 1 \hspace{20cm}$$
マイナス乗
aが正の実数でない時(正の実数の時は明らか)
\( -\mathrm{Arg} \, a +2\pi = \mathrm{Arg} \, (1/a) \)
なので
$$ a^{-n} = e^{-n(\log |a| +i \mathrm{Arg} \, a)} \hspace{20cm}$$
$$\quad \quad \! = e^{n(-\log |a| -i \mathrm{Arg} \, a)} \hspace{20cm}$$
$$\quad \quad \! = e^{n\{\log |a|^{-1} +i \mathrm{Arg} \, (1/a) \, -i2\pi \}} \hspace{20cm}$$
$$\quad \quad \! = e^{n\{\log |1/a| +i \mathrm{Arg} \, (1/a) \}} \times e^{ -i2\pi n} \hspace{20cm}$$
$$\quad \quad \! = \left( \frac{1}{a} \right)^n \times 1\hspace{20cm}$$
$$\quad \quad \! = \underbrace{\frac{1}{a} \times \frac{1}{a} \times \cdots \times \frac{1}{a} }_{n個} \hspace{20cm}$$
$$\quad \quad \! = \frac{1}{a^n} \hspace{20cm}$$
1/n乗
複素数のおかげで
負の数を含めて1/n乗を定義できます。
実際、
$$ (a^{1/n} )^n =\underbrace{ e^{(1/n)(\log |a| +i \mathrm{Arg} \, a)} \times \cdots \times e^{(1/n)(\log |a| +i \mathrm{Arg} \, a)} }_{n個} \hspace{20cm}$$
ezの指数法則を用いて
$$ = e^{(2/n)(\log |a| +i \mathrm{Arg} \, a)} \times \underbrace{ e^{(1/n)(\log |a| +i \mathrm{Arg} \, a)} \times \cdots \times e^{(1/n)(\log |a| +i \mathrm{Arg} \, a)} }_{n-2個} \hspace{20cm}$$
$$= \cdots = e^{(n/n)(\log |a| +i \mathrm{Arg} \, a)} = a \hspace{20cm}$$
よりa1/nはaのn乗根になっています。
指数法則は満たされる?
1/n乗まで指数を拡張できましたが
問題は指数法則です。
結論から言うと、
3つの指数法則の内1.5個が満たされます。
\(a^z a^w = a^{z +w} \)
一つ目は任意の複素数z、wについて成立します。
証明
$$ a^z a^w = e^{z(\log |a| +i \mathrm{Arg} \, a)} \times e^{w(\log |a| +i \mathrm{Arg} \, a)} \hspace{20cm}$$
$$\quad \quad \,\, = e^{(z+w)(\log |a| +i \mathrm{Arg} \, a)} \hspace{20cm}$$
$$\quad \quad \,\, = a^{z+w} \quad \square\hspace{20cm}$$
\( (a^z)^w = a^{zw} \)
二つ目は0.5個すなわち、
括弧の中身が1/n乗の時は成立します。
証明
$$ a^{1/n} = e^{(1/n)(\log|a| +i \mathrm{Arg} \, a ) } \hspace{20cm}$$
$$\quad \quad = e^{(1/n)\log|a|} e^{i(1/n) \mathrm{Arg} \, a } \hspace{20cm}$$
より
$$ |a^{1/n}| = e^{(1/n)\log|a|}, \quad \mathrm{Arg} \, a^{1/n} = (1/n) \mathrm{Arg} \, a $$
$$ (a^{1/n})^w = e^{w(\log|a^{1/n}| +i \mathrm{Arg} \, a^{1/n} ) } \hspace{20cm}$$
$$\quad \quad \quad \,\, = e^{w\{ (1/n)\log|a| +i(1/n) \mathrm{Arg} \, a \} } \hspace{20cm}$$
$$\quad \quad \quad \,\, = e^{w/n( \log|a| +i \mathrm{Arg} \, a ) } \hspace{20cm}$$
$$\quad \quad \quad \,\, =a^{w/n} = a^{(1/n) \times w} \quad \square \hspace{20cm}$$
反例
一方、括弧の外が1/n乗の時は成立しません。
$$ \{ (-1)^2 \}^{1/2} = 1^{1/2} = 1 \hspace{20cm}$$
に対して
$$ (-1)^{2 \times (1/2)} = (-1)^1 = -1 \hspace{20cm}$$
なので
$$ (a^z)^{1/n} \neq a^{z \times (1/n)} \quad \square \hspace{20cm}$$
\( (ab)^z = a^z b^z \)
三つ目も成立しません。
反例
$$\{ (-1)\times (-1) \}^{1/2} = 1^{1/2} = 1 \hspace{20cm}$$
に対して
$$ (-1)^{1/2} \times (-1)^{1/2} = i \times i = -1 \hspace{20cm} $$
なので
$$ (ab)^{1/n} \neq a^{1/n} b^{1/n} \quad \square \hspace{20cm}$$
まとめ
実数に限ると
負の数の累乗は整数乗までしか定義できないので、
1/n乗を求めて複素数の指数関数を持ち込みました。
この関数は整数乗までの累乗の定義と対応付きつつ
負の数の1/n乗も考える事ができます。
しかし代償に指数法則が失われてしまう
(1.5個は満たされる)という物でした。
やはり綺麗な指数関数を作る為には条件
\( a>0 \)
が必要。
強引に底が負の指数関数を作ると、
何かしら無理が生じてしまいます。