行列Aとその転置行列ATの
行列式は等しい事が知られています。
なるべく行間は少なく、
分かりやすさ重視で
証明したいと思います。
n文字の置換と符号は勉強済みとします。
行列式の転置不変性
補題を二つ用意します。
逆置換の符号補題
置換σと、その逆置換σ-1の符号は等しい。
証明
単位置換をεとして
\( \sigma^{-1} \sigma = \epsilon \)
である。
\( \quad\, \mathrm{sgn} ( \sigma^{-1} \sigma )= \mathrm{sgn} (\epsilon) \)
\( \Leftrightarrow \mathrm{sgn} ( \sigma^{-1}) \mathrm{sgn}( \sigma )= 1 \)
符号は1または-1なので
\( \mathrm{sgn} ( \sigma^{-1}) = \mathrm{sgn}( \sigma ) \quad \square\)
置換全体の集合の逆補題
n文字の置換全体の集合Snと、
その全ての逆置換の集合
\( \{ \sigma^{-1} \, | \, \sigma \in S_n \} \)
は等しい。
証明
σをn文字の置換とすると
σ-1もn文字の置換なので
\( \{ \sigma^{-1} \, | \, \sigma \in S_n \} \subset S_n \)
また任意のSnの元τは
\( \tau = (\tau^{-1} )^{-1} \)
の様に書け、
τ-1はSnの元なので
\( (\tau^{-1} )^{-1} \in \{ \sigma^{-1} \, | \, \sigma \in S_n \} \)
よって
\( S_n \subset \{ \sigma^{-1} \, | \, \sigma \in S_n \} \)
以上より
\( S_n = \{ \sigma^{-1} \, | \, \sigma \in S_n \} \)
が示される。\(\square\)
定義の確認
n次正方行列A=[aij]の行列式det(A)を次で定義します。
行列式の定義
$$ det(A) := \sum_{\sigma \in S_n } \mathrm{sgn} (\sigma ) a_{1 \sigma(1) } a_{2 \sigma(2) } \cdots a_{n \sigma(n)} \hspace{20cm}$$
本定理
行列式の転置不変性
\( det(A^\top ) = det(A) \)
証明
A=[aij]、AT=[bij]
と置くとbij=ajiである。
関係式を用いて
$$ det(A^\top) = \sum_{\sigma \in S_n } \mathrm{sgn} (\sigma ) b_{1 \sigma(1) } b_{2 \sigma(2) } \cdots b_{n \sigma(n)} \hspace{20cm}$$
$$\quad\quad\quad\!\quad\! = \sum_{\sigma \in S_n } \mathrm{sgn} (\sigma ) a_{ \sigma(1) 1 } a_{ \sigma(2) 2 } \cdots a_{ \sigma(n) n} \hspace{20cm}$$
ここで列の添え字kを、
行の添え字σ(k)で表す自明な書き換えをする。
$$ = \sum_{\sigma \in S_n } \mathrm{sgn} (\sigma ) a_{ \sigma(1) \sigma^{-1}(\sigma(1) ) } a_{ \sigma(2) \sigma^{-1}(\sigma(2) ) } \cdots a_{ \sigma(n) \sigma^{-1}(\sigma(n) )} \hspace{20cm}$$
σはn文字の置換なので
{σ(1), σ(2), ..., σ(n)}={1, 2, ..., n}
順序を整えれば
$$ = \sum_{\sigma \in S_n } \mathrm{sgn} (\sigma ) a_{ 1 \sigma^{-1}(1) } a_{ 2 \sigma^{-1}(2) } \cdots a_{n \sigma^{-1}(n) } \hspace{20cm}$$
となる。
補題1より
$$ = \sum_{\sigma \in S_n } \mathrm{sgn} (\sigma^{-1} ) a_{ 1 \sigma^{-1}(1) } a_{ 2 \sigma^{-1}(2) } \cdots a_{n \sigma^{-1}(n) } \hspace{20cm}$$
σ-1をτと置いて
$$ = \sum_{\tau \in \{ \sigma^{-1} \, | \, \sigma \in S_n \} } \mathrm{sgn} (\tau ) a_{ 1 \tau(1) } a_{ 2 \tau(2) } \cdots a_{n \tau(n) } \hspace{20cm}$$
補題2より
$$ = \sum_{\tau \in S_n } \mathrm{sgn} (\tau ) a_{ 1 \tau(1) } a_{ 2 \tau(2) } \cdots a_{n \tau(n) } = det(A) \quad \square\hspace{20cm} $$
まとめ
転置不変性の証明には
行列式の基本事項が詰まっています。
n文字の置換、互換により符号、
行列式自体もと
覚える定義の多さが難しさの理由です。
落ち着いて一つずつ取り組めば大丈夫です。